「自給自足型社会の到来」後編です。(前編はこちらから)
◆一人ひとりが「創ることに参加」する。それ自体が幸せ。
経済は成熟し、正解とされていた道は確かなものじゃなくなったし、商品をつくってもなかなか売れない。
そんな中でも、自分で参加して創ったものは、思い入れが生まれるし、ちょっと高くてもいい。もしくは金銭的な報酬は必ずしもなくたっていい。
FablabとかMakersの話はまさにこれだし、農業体験とかコミュニティスクールもそう。ユーザー共創型の商品開発なんかもそう。
単なる「消費者」のままでいるのではなく、「生産者」として関わる、ということである。
ビジネスの中でも生産者と消費者を再融合させていくことが不可欠になってきているし、政治や教育といった公共領域に「自分ごととして参加する」ことにも繋がってくる。
「創ることに参加」する。それ自体が、お金を稼ぐことと同列か、それ以上に価値を持ってくる。ダイレクトに幸せに繋がってくる。
与えられる・世の中にあるものを消費するだけではなく、必要なものを自分でつくったり、地域の教育を自分たちでつくったり。
そこでは「労働の対価として賃金を得る」のはOne of themであり、無償なのに参加したり、逆に参加するのにお金を払ったりもする。
例として、千葉県の東葛飾高校で行われているリベラルアーツ教室では、社会人が無償でそれぞれの専門分野に則した授業を行っているが、これが年間50回以上も行われている。
NPO法人SVP Tokyoでは、社会変革を行う起業家の支援を行うパートナーが、自ら10万円を支払って参加している。金銭的なリターンがないのにである。
これまでの金銭一元主義的な価値観から、「豊かさ・幸福感の多様化」が起きているのである。
新たな価値観は、お金を稼ぐのも幸せだけど、何かに参加して創ることも幸せだと感じる。
個の自由・競争も大事だけど、コミュニティ・共創も大事にする。公共に対する自分ごと感や、社会課題への関心も高い。
時には贅沢もしたいけど、足るを知る精神も持っている。地球環境も気にする。
新たな価値観は、「エゴ的」な価値観と「エコ的」な価値観が共存している。別に資本主義のルールも否定せず乗っかるし、それ以外のあり方も同時にやればいいよね、と思っている。極めてワガママであり、人間味があるとも言える。
◆生き方も自給自足する
与えられた正解の生き方がなくなってきた中で、新しく芽生えた価値観を体現するように、働き方や暮らし方、ひいては生き方までも自分たちで創ってしまう若者たちが現れ始めた。
様々な社会課題を抱えるアジアや東北で、現地の人々と一緒に解決に取り組む人。
大企業のブランドや給与の代わりに、新卒でNPOに就職する人。
離島や田舎にUターン・Iターンして、豊かな自然と人の繋がりの中で生き、働く人。
子どもを入れたい学校が近くになくて自分で創ってしまった人。
大企業で働く傍ら、そこで培った力を駆使してNPOのプロボノ活動に取り組む人。
・・・これに限らず、僕らのまわりではたくさんの新しい生き方が生まれてきている。
これまで前提として暗黙的にあったものは、これから先は前提ではなくなってくる。
新たな価値観と、自給自足な生き方をする人たちが増殖し、キャズムを超える時期が近いうちにやってくる。
そこでは、社会から与えられるメインストリームと、それ以外の負け犬、という区分がなくなっていくはずだ。
◆ヒューマンスケールな社会
「目の前の課題を自分ごととして捉え、身の回りの限りあるリソースを組み合わせ創意工夫しながら、仲間や家族と一緒に解決していく」
「一人ひとりが自分の人生を自分で創っていく」
ちっちゃいようで、めちゃくちゃビッグなことだと思う。こんな普通の、限りなく人間らしい活動を一人ひとりがやっていく社会。大衆生産、70億総創り手の世界。
肌触り感があって楽しいし、顔の見える関係性がベースとなるので、ロボットや海外にも代替されにくい。グローバル化!コモディティ化!といわれる中でも、この近距離の世界から生まれるものは、輝きを失わない。
そして、際限なくつくりまくるのではなくて、必要なものことを創り、満足感・幸福感を得るので、なかなかにサステナブルでもある。
また、閉じたムラ社会に戻るのではなく、他のコミュニティや海外とのトランスローカルな繋がり・出入りがあって、いつも刺激がある。
一つのコミュニティでは知恵にも限度があるので、他の優れた「草の根発イノベーション」をうまく取り入れてより良いものを創っていく。ICTの発展もこれを後押ししていく。
新しい風を吹き込み、イノベーションの発火材となる「ヨソ者・若者・バカ者」を受け入れる隙間も持っている。
「自分たちでつくり、充足する」
これが「自給自足型社会」の全貌である。
◆自給自足型社会を目指して
思えば8年前に創業に参画した「ちよだプラットフォームスクウェア」は、「自給自足型社会」を体現する一つの形であった。
・既存の公共施設(既にそこにあるもの)をインキュベーションオフィスとして活用して千代田区を盛り上げるという公共性・近距離性を持ったミッション
・非営利型株式会社であり、金銭的な配当はあまり期待できないのに、多くの出資者が現れ、さらには自ら経営に「参加」までしてしまう
・施設の大きさで収入(市場規模)の上限が決まるため、際限なく儲かるビジネスモデルではないが、ビジネスとしての競争力をもっているのでスタッフは食べていけるし、やっていて楽しい
・このモデルが他の自治体にとってのリファレンスとなり、実際にいくつかの自治体で具体的な行動が起きている
現在自分が活動している「ハバタク」「教育共創研究所」においても、その精神を体現すべく取り組みを始めている。
10月にリリースした「Cross Border Incubation Platform(XIP)」は、新興国の様々な社会問題をビジネスで解決しようと奮闘するイノベーター達と日本の若者がタッグを組み、国内の経験豊富なミドル・シニア層からバックアップを受けながら、社会変革に挑む取り組み。一緒に活動していく新興国のイノベーターは、まさに地で「自給自足社会」を体現しようという猛者達だ。アジアにはそういう人たちが本当に多い。
現地に飛ぶ若者は、IBMやSONYに行くよりも給料は断然低いが、それ以上の成長機会や、仕事の肌触り感を得られると信じている。
国内からバックアップするミドル・シニア層は、参加費を払い、その上自分の時間を割いてまでプロジェクトに参画することになる。それでも余りある学びや楽しさを得ていただけるような取り組みにしていきたい。
新法人としてこの7月に設立した「教育共創研究所」は、地域から教育をよくしていこうという取り組みだ。
地域に住む人たちや、学校の先生、市議会議員さん達と共に、より良い教育を「共に創って」いく。それぞれの地域で生まれた草の根発の優れた取り組みを、他の地域でも参考にし、実現できるようトランスローカルに繋いでいく。
市場規模がソーシャルゲームほどあるかと言われたら全く以てそんなことはない領域であるが、でもやる価値があると思っている。ビジネスモデルとしても、しっかり食っていけるようにしていく。
いずれの取り組みもまだまだこれからである。ちゃんとまわっていくかどうかは、やってみないと分からない。
自給自足型の経済モデルや、ビジネススキームのあり方、学びのあり方も、もっともっと研究・実証していく必要があると思う。日本発・アジア発で世界にも発信していきたい。一緒に考えて行動していける仲間も欲しい。
そんな社会の姿を想像しつつ、走りながら考えていこうと思う。
丑田俊輔