オトナよ、「大きな子ども」になれ〜フューチャーセンター運営の真ん中で思うこと


こんにちは、ハバタクの長井です。
1月もあっという間に過ぎ去りましたね。
日差しが徐々に暖かくなっている気がして嬉しい今日このごろです。

さて1月には成人の日があったということもあり(ちょっと遅いですが…)
今、求められるオトナ像」をキーワードに記事を書こうと思います。
すでに大人になっている方、これから大人になる方、そして
今年まさに新成人のみなさんにとって参考になる話になればと考えています。

「子ども」は自明な存在ではなかった

「大人」を考えるうえでは「子ども」という言葉が対置されてくるわけですが、これに関してフランスの歴史家アリエスの『〈子供〉の誕生』(1960年)という著作を思い出しました。曰く、「子ども」という概念は中世ヨーロッパでは存在しなかった。死亡率の高い乳幼児期を乗り越えた人間はさっそく「小さい大人」として丁稚奉公に出されたりして、大人と同一の世界に放り込まれていた、というわけです。近代に入って学校教育制度が整備されはじめ、教育というものが専門的に提供されるに至って、やっと彼らは「子ども」という存在としてこの世に誕生した、という考えです。
そうして成り立ってきた近代社会ですが、現代では、この「大人」「子ども」の境界線が再び崩れ始めていると感じています。必ずしも悪い意味ではありません。例えば職業体験やインターンシップなどのキャリア教育の盛り上がりであるとか、教室にとどまらず地域社会を学びの場とした探究型学習の登場など。あるいは従来の格式張った就活システムの外側でキャリア探しを支援するようなサービス(例:デコボコラボ)もこれに当てはまるかもしれません。
もともと「大人」と「子ども」を対置するとき、「大人」=社会生活的に一人前、「子ども」=社会生活的に未熟、という価値判断が含まれている気がします。しかし何が社会にとって価値のある思考・行動なのかという「正解」が不明確になり始めているいま、この二項対立自体が意味を失い始めているのではないでしょうか。現に日本においては「大人」であることが旧システムへの固執とほぼイコールであり、時代への適応を阻害する壁となっている例も少なくないと私は考えています。
前述の新しい教育の潮流が21世紀型の「小さい大人」を育成する仕組みだとすると、逆に21世紀型の大人はどうあるべきなのでしょうか?ここではひとつ言葉遊びですが、

オトナが「大きな子ども」だっていいじゃない

と言ってみようと思います。
「大きな子ども」と聞いて連想するのはたとえばピカソやジョージ・ルーカスのようなアーティストでしょうか。あるいは成毛眞氏の「大人げない大人になれ!」で紹介されているような経営者たちを連想するかもしれません。また、MITの Lifelong Kindergarten が目指しているのもこうした方向性ですよね。

彼らもまた、まごうことなき「大きな子ども」だと私も思います。では、そんなことができるのは世界でも一握りの人々でしかないのでしょうか。今回紹介したいのはもっと草の根で蠢き始めているムーブメントのなかにいるオトナたちです。

「市民発のフューチャーセンター」という学びの場

昨年4月にオランダで視察をおこなってから、私は地元でもある千葉県柏市でのフューチャーセンターの設立・運営に携わっています。このあたりの経緯については、先日できあがったばかりのフライヤーの原稿がよくまとまっているので、そのまま引用させてください(私が書いたので、誰からも苦情は来ないはずです…笑)。
柏市在住のクリエイティブチームによる素敵なフライヤー

日本で初めて市民・行政を巻き込んだフューチャーセンター(FC)が開催されたのは、20111月、ここ柏でした。20124月には、主催である柏まちなかカレッジ学長の山下洋輔と柏市民の長井悠が、フューチャーセンター発祥の地である欧州に渡り、オランダのフューチャーセンターを視察。組織を越え、関係者と協働し、社会課題を解決している姿勢に大いに学びを得ました。また同地では世界のフューチャーセンターの生みの親の一人であるHank Kune氏と会談。「市民の手によるフューチャーセンターを立ち上げ、草の根からのムーブメントを起こして欲しい。これは世界のどこでもない、日本だからできることだ」との思いを託されました。

帰国後、本格的に運営メンバーを組織して活動を開始。柏の強みであり、誰もが関わりのある「食」をテーマに、「つながりある地域」を目指すフューチャーセンターを企画。20126月から、単なる対話ワークショップに終わらない、実現力にこだわった地域密着型のプロジェクトとして発足しました。

実は欧州のフューチャーセンターの設立・運営は省庁や行政機関、銀行などがトップダウンで意思決定を下して運営していることが多く、市民自身が運営していく形態をとることは基本的にありません。それに対して、日本では行政運営が滞りがち。それならば、市民からボトムアップでフューチャーセンター的な動きをリードしてしまえば良いのではないか?と考えていたところ、欧州でも「それ、日本ならできると思うんだよね!」と応援してもらい、本格的に運営をはじめたというのが経緯です。2012年の6月からの1年間を第1期と位置づけ、この1年間は「食」をテーマに活動を展開しています。ちょうど先週末に第3回となるセッションをおこなったところです。

第3回セッション後の集合写真。年代もバックグラウンドもバラバラですが、刺激的な会になりました。会場はUDCK@柏の葉です。

大人が”オトナ”になっていく瞬間

フューチャーセンターでは参加者の多様性が重視されます。「未来のステークホルダー」という言葉を使いますが、扱う課題に関して今関係している人だけでなく、これから関係してくるであろう人まで巻き込んでいくことで、課題に対する豊かな視点とアイデアを得ていこうとするからです。そういう意味で私たちのフューチャーセンターでは「食」に関連する多様な方々が集まっています。地元のスーパーの経営者、飲食店の店長さん、流通業の方、市役所の関連部署、市議会議員、農家さん、そして主婦や学生さんなど。究極的に言えば誰もが関係するテーマであるだけに、バックグラウンドは実に多様です。

正直なところ、昨年6月に最初のセッションを開催したときは「どんな会になるんだろう?」と一抹の不安もありました。年代も職業もバラバラですし、場合によっては普段利害が対立している関係者同士が参加する可能性もあるわけです。当然「ワークショップ」という言葉を聞いたことがない人もいる。はっきり言って、ビジネスパーソンが集まる都内のセッションより難しい。もしかすると激しい口論になったり、逆に白けてしまったりしないだろうか…という心配は、いい意味で裏切られました。

倉庫を改造した柏のアートギャラリーでのセッション風景。


冒頭こそ慣れない雰囲気に緊張感が走ったものの、地元の未来を良いものにしていきたいという願いや、「食」のもつ可能性を語りだすと止まらない止まらない。一番うれしかったのは、セッションも終盤に近づいたとき、ある年配の方が「なんだ、みんな目指しているところは一緒なんだね」とつぶやいてくださったこと。この言葉をきっかけとして、立場や世代を越えた気づきが生まれ、市民発のプロジェクトとしての求心力がぐっと高まったと感じました。

ただ、「気付き」どまりではフューチャーセンターとは言えません。計画を詳細化し、さらに新しい人を呼び込み、企画を練り、キーパーソンに働きかけ…と物事が円滑に進行するよう働きかけるのは運営チームの腕の見せどころ。いま「柏ならではのフードリテラシー(食育)プログラムを開発・展開するチーム」と「オープンコミュニティ食堂をつくり、新しい人のつながりを創発するチーム」の2つがワーキングチームとして走っていますが、もともと「『食』でこんなことやりたいんだ」と内に秘めていたモノを持ち、地域リソースへのつながりの濃い方々なので、驚くほどのエネルギッシュさでプロジェクトが進んで行きました。ちょうど折り返し地点となる2012年の年末あたりから実績が生まれ始めています。市民発の活動として機能するだけではなく、最終的には行政への提案まで視野に入れ、後半の半年の活動を加速していくところです。

柏の食のプロから、柏の食材で学ぶ食育プログラムが発足。近郊農業都市としての強みを活かします。

官庁の社会実験とコラボして柏駅前にオープンカフェを開く試み。お揃いのジャンパーもなかなか好評です。

「大きな子ども」が集う場に

参加してくださっている市民の方々と付き合うようになって何より印象深かったのは、「(もちろんいい意味で)子どもみたいだ!」ということ。
  • やりたいことを諦めない
  • 自分たちならやれると信じている
  • 慣れないことも楽しむ

文章で書いてしまうとよくある自己啓発本のようですが、こんな空気が満ちている市民空間ってそんなにない気がします。

柏の市民が特別聖人君子というわけではないし、スーパーマンというわけでもありません。モチベーションの源泉は人によってさまざまです。食への思い入れ。自分の野望のために。人とのつながりを求めて。研究テーマの実験場として。むしろ自分のモチベーションを正直に追い求めているから楽しいし、活動が続くのだと思います。ただ1点だけ、東京などで行われるフューチャーセンターセッションと明確に違うのは、「柏の未来のために」という地域に根ざした強力な共通基盤があることかもしれませんね。

その一方、活動が本格化するにつれて課題も出て来ました。たとえば財務の面や、メンバーの負荷の集中などです。あるいは参加メンバーが増えていくなかでコミュニケーションの量と質をどう保っていくか、など。このあたりは運営チームが縁の下の力持ちとしてサポートを十全におこなっていく必要がありますし、「市民発のフューチャーセンター」というひとつの運営モデルを構築していくチャンスでもあると考えています。このあたりは別の機会に書いていきたいと思います。

参加してくださっている農家さんのかぶ。実は柏はかぶの生産量日本一。今後メニュー開発などの構想もあります。

丑田が最近「創ることに参加する」といったテーマで記事を書いていますが、柏の事例はまさにまちづくりに活き活きと参加する市民たちのストーリーです。昔であれば放っておいても生まれたかもしれない地域への思い入れや人とのつながりが、複雑系の支配する現代において薄れてしまっているのは疑いない事実だと思います。それがフューチャーセンターという仕掛けによって再び活性化していき、変に大人ぶって「そんなに頑張ったって社会は変わらないよ」なんて言わず「大きな子ども」として学びあえる社会になっていく。このプロセスに関われるのはこの上なくエキサイティングなことです。私も日々学ばせてもらっています。

こうした新しいオトナのありかたが全国の草の根に広がったらどんな世界が登場するでしょうか。そこから何が生まれてくるのでしょうか。また、そのオトナの背中を見て育つコドモは何を思い、何を目指すようになるのでしょうか。そんなことを想像しながらこれからも活動を続けていきます。どうぞご注目ください。

食のフューチャーセンター柏WEB
※2013年1月27日の開催レポートが掲載されています

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