秋の夜長を楽しむならこの本〜350年の数学ロマン


こんにちは、ハバタクの長井です。
今回は秋の夜長を楽しむシリーズ、ということで、3人でそれぞれオススメの本をご紹介しようと思います。さて、私が紹介したいのは「フェルマーの最終定理」(新潮社)です。

一言で説明すると、「数学界の史上最大の難問と言われた『フェルマーの最終定理』が発見され、証明されるまでのノンフィクションストーリー」なのですが、とても事実にもとづく話とは思えないほどドラマチックであり、ロマンにあふれた物語です。
以下、その魅力を3つに分けて説明しようと思います。
※そもそもの「フェルマーの最終定理」の内容についてはこちらをご覧ください(wikipedia)

1. 350年にわたるイノベーションリレー

17世紀の数学者フェルマーがある命題について「私は真に驚くべき証明を見つけたが、この余白はそれを書くには狭すぎる。」という謎めいた書き込みを遺したことからスタートし、ワイルズによる1995年の完全証明がなされるまで実に350年以上、「フェルマーの最終定理」は数学者のあいだで常に解けない問題として立ちはだかっていました。この本では、その超難問がどのようなアプローチで証明に至ったかをハイライトして描いてくれています。

はっきり言って私のような一般人には詳細まで立ち入った理解はとてもできないですが、著者のサイモン・シンが見事に勘所を押さえてくれているおかげで、巨大な一枚岩のように見えたフェルマーの最終定理に対して数学者がどのポイントから突き崩し、最終的には完全にクリアすることができたかを追うことができます。そのプロセスはまさにイノベーションの連続で、新しい進展があるたびに「そうきたか!」と唸らせられます。後半、一見関係のない別分野の定理が証明の鍵になるということが明らかになり、それが言わば背後から弱点を突くようなかたちで大きな進展が起こるのですが、そのくだりではサスペンスを読んでいるかのような興奮を味わいました。

2. 数学者たちの意外な人間臭さ

本書では、この歴史的な成果に関わった数学者たちがたくさん紹介されています。私の勝手な先入観だと、数学者というのは紙とペンを武器に議論を展開するスマートな人たちなのかと思っていたのですが、実にいろいろなエピソードが盛り込まれており、いい意味で裏切られました。

中にはオイラーのような超人的なキャラクターもいますが、女性が軽視された時代に果敢に挑戦をしたソフィ・ジェルマンや、政治活動のもつれから決闘を申し込まれ、死ぬ前日の晩に数学のアイデアを走り書きして20歳でこの世を去ったガロアなど、個性豊かな面々が次々に登場します。一人ひとりの人生を追うだけでもそのドラマを楽しむことができます。

何より、最終定理へとつながる数学的アイデアのつながりは意外とギリギリだったり偶然だったりするので「もし、この人がここでこうしなかったら現在でも証明は完成しなかったのかもしれない…」などと思うと、ますます数学者たちのキャラクターが魅力的に思えてきます。

3. 「信じる」という原動力

これは本書以外のところで読みましたが、実はフェルマー本人がこの命題を本当に証明できていたかどうかは怪しい、という見解もあるようです。真偽はどちらにせよ、驚くべきは「フェルマーができると言っているからきっとできるはずだ」という信念(あるいは執念)ひとつで、本当に証明を成し遂げてしまった、という事実です。精神論ですべてを片付ける気はないのですが、人が何かを信じるということの力をこれほど大きなスケールで目の当たりにするというのはとても貴重な体験でした。

最後に完全証明を達成するワイルズのエピソードが特に印象的で、10歳のときにフェルマーの最終的理に出会い数学者を志した彼が、めぐりめぐって再びこの定理の証明に立ち向かうことになり、まわりのノイズを避けるために自宅の屋根裏部屋にこもって7年以上もの苦闘を演ずることになります。さらに、一度は証明完了とした論文に致命的な欠陥があることが判明してしまい、その部分をクリアするためにダメ押しの勝負に挑むのですが、このあたりはもう最終ラウンドを闘うボクサーを応援するような気持ちです。それこそ「あとは信じるしかない」といった状況になるのですが、最後にその障害をクリアする瞬間の描写の爽やかさはぜひ実際読んで味わってみてください。

ここまで、イノベーション人間臭さ信念といったキーワードでこの本の魅力をご紹介してみました。私は数学はむしろ不得手なほうですが、そんなことは関係なく「いかに世界に新しい境地を切り開くか」というチャレンジの物語として非常に共感し、また感動したことを覚えています。

みなさんも、本書に出てくる数学者たちのように、壮大なゴールへ向かって走る世界レベルの冒険者になりたいと拳を固めること請け合いです。まだ読んでいない方も、一度は読んだ方も、秋の夜長に本書を手にとってみてはいかがでしょうか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>