2月末からはじまった「シェアビレッジ町村(まちむら)」プロジェクトのクラウドファンディングは、861人もの方々から、目標の6倍近くの5,711,000円もの金額が集まりました。
ご支援くださったみなさまに、心より御礼申し上げます。
プロジェクトが勢いよく幕を開けた一方で、「どうしてハバタクがこのプロジェクトに関わっているの?」というご質問もいただくことが多々あり、ハバタクにとってこのプロジェクトは何なのか?や、立ち上げの経緯などについて、あらためてご紹介できたらと思い、丑田にインタビューを行いました。
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日本のローカルから、世界に新しい切り口を魅せていく
◎しょっぱなから、「そもそも」の質問をしていきますが…、どうしてハバタクは秋田に拠点があるのでしょうか?
ハバタクは、学び方を変えていくことを目指して動きはじめた会社で、「多様性×創造性=共創」をコンセプトに、教育機関向けのカリキュラムデザインを行ってきました。その中で、「学び」というのは学校の中だけじゃなくて、家や地域で大人の背中を見ながら育つ部分もあるということと、そこで学んだあとの働き方も変わっていかないと、社会のシステムとして変わっていかないんじゃないかという問題意識がでてきました。
東南アジアの国に拠点を構えて仕事をする中でも、地球規模で社会課題が連鎖していく環境において、今までの先進国の学び方、働き方に追随していくようなこととも違っていく可能性がある。実際、アジアのローカルからも、草の根発イノベーターたちが同時多発的に生まれ、新しい時代を形づくっている。そんな正解のない世界の中で、どうしたら持続可能な社会のあり方を、日本の足下から形作っていけるだろうか、という思いが生まれてきました。
そこで、学校も地域社会も家庭も、子どもの学びも大人の働き方も学びも、ごちゃまぜの状況でどう形作っていけるかに挑戦してみたい。学び方、働き方も全部ひっくるめて、生き方、営み方といったらいいのか。それを自ら実践していくフィールドを模索する中で、様々なご縁があり、一目惚れしてしまった秋田の五城目町(ごじょうめまち)で活動させていただくことになったという流れです。
ハバタクの主要事業としては、教育事業を主とした、学び方の変革を生んでいくことがミッション。そこで培われた知見やネットワーク・問題意識を持って、よりシステム的な視座からアプローチしていくことを、日本の足元から取り組んでいこうとするのが、五城目町を拠点とする「ハバタクラボ」です。
◎なぜ東京ではなく田舎に?
都市と田舎を比べたときに、あくまで大まかな傾向としてですが、次のような違いがあります。田舎において、「貨幣経済は、あくまで1ピースでしかない(依存度が高すぎない)」という位置づけの社会のモデルだという点です。経済には三種類あって、生きるためのものをつくる自給経済と、それを共同体で助け合う贈与経済、お金を媒介とした貨幣経済があります。都市化が進むにつれて、自給経済と贈与経済が縮小していき、貨幣経済が生き方の大部分を占めてくることによって、生まれてくるひずみがあるという感覚がありました。特に3.11を経て。学び方や働き方を考えるときにも、貨幣経済の中だけでそれを解こうとしても、どうしても解きほぐせない部分がある。その時に、もう一段階俯瞰した視点で三つの経済をバランスよくデザインすることから、次のモデルを見出していくということをしたかった。
そういう意味で、田舎のヒューマンスケールな社会、小さな経済の環境でチャレンジすることが、自分自身の生き方や想像力の土台としても、ドライバーとしてもいいんじゃないかと。辺境から起きたモデルがきっと、これからの世界に新しい切り口を魅せていけると思うんです。
◎五城目町じゃないとできないのではなく、モデルを目指しているということですね?
五城目に全員引っ越してきたら里山のキャパが足りないですからね(笑)。都市の人たちが田舎に関わるというオルタナティブが、今後加速していくはずなんです。それは、貨幣の経済だけで自分の生き方をとらえるところから、もうちょっと幅広い視点で自分の生き方を考えられる環境が大事になっていくことなんだと思います。自分の地元に戻るのもいいし、ご縁や仲間がいるところに引っ越すのもいいし、二拠点居住で柔軟に働き方・生き方をデザインするっていう人も出てくる。そして、都市にいながらも田舎的要素をシェアしてもらう、というアイデアもありで、これが五城目町の茅葺古民家を軸にスタートした「シェアビレッジ・プロジェクト」の世界観でもあります。
それは、今まであまりにも都市集約で画一的な貨幣経済の中で戦っていた部分が、ほぐれていくような感覚だと思うんです。付け加えておくと、資本主義や貨幣経済は人類が産み出した素晴らしい知恵の一つで、いい付き合い方をしていきたいと思ってもいます。
◎ということは我々はもっともっと自由になれるということですね!
そうですよ!
地域に脈々とあり続ける、すごいもの達
◎五城目に行って約1年。秋田でのミッションについて聞かせてください。
2つあります。ひとつ目は、ローカル発の事業をつくっていくこと。中央-地方のピラミッド構造の中で仕事を捉えていくだけではなく、ローカルの中にある面白いものや美しいものや人の面白さを価値の源泉に、想像力を働かせながら仕事を形づくっていくこと。それは、ローカルで生きる必要な分のお金を稼げるという環境を作っていくということでもあります。まだ住んで1年ですが、地域に脈々と受け継がれてきた、そこにあり続けるもののすごさを味わう日々です。
ふたつ目が、地域で人が育つ環境に貢献すること。たとえば五城目小学校と国際教養大学の学生チームとの連携で行っている「世界一周」の授業を企画していくことだったり、「ごじょうめ朝市大学」という”大人が学ぶ場”をつくっていくような、ノンプロフィットの活動も含めて。それを行うことで、ひとつめの「仕事をつくる」ことの土台にもなっていく。子供達も、地域で働くカッコイイ大人の背中を見て学び育っていく。この連関の蓄積が、「世界一子どもが育つまち」を彩っていく。
そして、外から見てもエッジの効いた取り組みをしていくことで、このまちでこどもを育てたいと思う人、田舎に帰りたいと思う人、ここで起業してみたい人たちが集まってきたらいいなぁと想像しています。
◎そういった中での今回のクラウドファンディング、これをはじめようと思ったきっかけはなんだったんですか。
五城目町の廃校オフィス近くにある築133年の茅葺古民家。この家を初めて訪れた時、空間のパワーに圧倒されました。すごい、と思わせる力があるってことは、事業としての圧倒的な価値の源泉にもなり得る。持ち主の方は以前に引っ越されたんですが、代々百数十年も暮らしてきたこの家に、毎週通って開け閉めしてきたという、とにかく思い入れのある大切な家で。ただ、自分が管理しないと朽ちていく。長い時間の中で家にも人格のようなものが紡がれていくと考えており、そうなっていってしまうのであれば、いっそ解体するのもいいのかもしれない。でも、もしこの家を責任をもって未来に残していける人がいれば、ということも考えておられた。こうした流れの中で、ご縁がつながることができました。
◎プロジェクトメンバーの方たちとは?
秋田で活動していく中で出会っていった秋田の若手仲間です。シェアビレッジというコンセプトは「村長」(シェアビレッジ・プロジェクトのBOSS)の武田昌大くんの発案。彼は米農家をプロデュースして、都市と生産者をつなげながら、かっこいい農業をつくっていく「トラ男(トラクターに乗る男前)」という活動をしているのですが、その中で、彼もほぼ同時期に別ラインから五城目のこの家を知ったんです。そこで、古民家で彼と持ち主の方を含めて会って、話し合って。奇跡的な出会いだったと思います。じゃあ具体的にどういう事業設計をしていくか、というところを話し合い始めたのが、去年の夏頃からです。
◎思い入れのある家なだけに、譲っていただくのは大変だったのでは?
もちろん、沢山の思いの詰まった家なので、すぐにすっといくものではありません。半年ほどの時間の中で、家にまつわるストーリーを聞かせて頂いたり、コーヒーを飲みながらゆっくりと話をする中で、「このチームにだったらまかせてもいいかもしれない(ちょっと不安だけど)」と思っていただき、去年の12月から今年1月に、本格的にシェアビレッジ・プロジェクトをリリースしていこうという話となりました。
その時に、シェアビレッジへの宿泊体験や食文化をディープに伝えていく上でのキーパーソン、若手農家の松橋拓郎くんがチームに入ってくれました。彼は「松橋ファーム」3代目として、農業の新しい形を模索・実践をしている人で、中でも「農家がつくる日本酒プロジェクト」(米づくりから酒づくりまで多くの人が参加しながら進めていく体験事業)はものすごいセンス。
シェアビレッジの魂として、旅館を経営するというよりも、古民家のそのままの趣や暮らしを楽しむことを目指しており、今回は農家民宿制度を活用することで、シェアビレッジの事業スキームが出来上がりました。
都会と田舎が、いいところをシェアし合うという世界観
◎このプロジェクトのアピールポイントはなんですか?何をどう楽しめばいいのですか?
「村があるから村民がいるのではなく、村民がいるから村ができる」という考えのもと、自分たちの村をつくってしまおう!というのが大きなポイントですね。古民家を軸としたネットワーク型の村づくりを目指し、第一弾として五城目町の茅葺古民家「シェアビレッジ町村」を5/2にオープンします。会員制のコミュニティと考えていただけるとわかりやすく、年貢(年会費)を納めていただくことで村民になることができます。村民は、古民家への宿泊をはじめ、里山をサイクリングしたり、農林業体験したり、起業の準備をしたりと、その活用方法は無限。通えば通うほど村民の位が上がっていく仕組みで、ブロンズ村民(ブロンソン)から、最高位は名誉村民(メイソン)となっています。村民と年貢が増えれば増えるほど、秋田の他の古民家や、全国に眠る古民家をどんどん村化していくことができ、日本中に自分の村=第二の田舎ができていくプロセスを楽しむこともできます。古民家保全という領域に留まらず、参加型エンターテイメントであり、関わる村民のクリエイティビティを増幅させる村づくりを行っていきたいと考えています。
◎第二の田舎をもつってどういう感じなんでしょう?
親が東京や都市に出て育った人は結構多くて、僕も含め、そういう人にとっては、田舎に観光で行っても、ほんとうの田舎の価値に触れることって中々難しいんです。田舎がある人にとっても、風通しのいいコミュニティを欲している場合もあります。
マスでサービス提供された田舎体験、観光よりもどっぷりと浸れるような、かつ自分の村として参画できる第二の田舎をもつ。田舎のいいところをシェアしてもらう。そんな中で、もしかしたらまちを気に入った人が引っ越してきたり、ビジネスを起こしたりするような流れにつながっていくかもしれない。また、ローカルに住む人と村民が交流を繰り返していくことで、田舎側にとっても、都会の面白さをシェアしてもらえるようなコミュニティになっていくと、より楽しくなってくると思います。都会か田舎か?ということではなく、それぞれが素晴らしくてイマジネーションに溢れているし、共有し合っていけたらいい。
今後は、東京に住む村長が「寄合」という名の交流会を毎月行っていく予定で、あまり頻繁に田舎に「里帰り」できなくとも、新しい「村のコミュニティ」に参画していける仕掛けもつくっていきたいですね。
ローカルの美を様々な形に。地域商社的な展開を目指して
◎お話も佳境に入ってきましたが、ハバタクにとってこのプロジェクトはどういう意味をもっているんでしょうか?
一つ目はローカル発の素晴らしい資源を軸にした事業展開・事業づくりの一つでもあり、二つ目は都会と田舎の関係性をリ・デザインしていく挑戦でもあります。
これから先、五城目発・ローカル発の色々な事業を模索していきたいと思っていますが、その形は、プロダクトだったり、デジタルコンテンツや出版、学びや体験、シェアビレッジのような場とコミュニティだったり。いわゆる「地域商社」的な機能を生み出していけたらと思っています。ローカルの中にある価値を多様な形で事業化していく、ボトムアップから生まれる流れを、時には主体となり、時には下支え、加速していく。美しいものをいろんな形で出していくような事業展開を目指します。
◎そういった考え方はどこからヒントを得ているんですか?
アジアを旅している時に驚いたのが、ローカルの人たちがすごくイマジネーティブで、目の前の暮らしを豊かにする、課題をプレイフルに解決していくための小さな試行錯誤を繰り返していたこと。日本の地域にもそういう人たちが沢山いる。もともと人類はそういうものだったと思うんですけど、大きな社会システムの構造の中で、ローカルが下請け的な、ピラミッドの底に位置付けられていくことで、イマジネーションの枯渇が起きていく。それによって生まれていく多種多様の課題があって、どうしたら解けるかというと、ローカルから、ImaginationとCreative confidence、「自分たちでもできる」「あるものからつくる」といった感覚を、若い世代も含めてひたすらに積み重ねていくことで、良いサイクルになっていくんだと思います。
つまるところ、ハバタクの目指す学び方の変革もそこが根本にあります。大きなシステムに暗黙のうちに乗っかっていくとか、外的要因で自分の生き方を決めていくことによってイマジネーションが欠落していくこと、そして、その外的要因の変化があったときに、ものすごく脆い状態になってしまう。ハンナ・アーレントのいうような、良心や自分のあり方をどこかに置いて、日々の活動を続けてしまうことで生まれるネガティブなインパクトもある。
◎最後に、「美しい」ってどういうことですか?ハバタクの世界観の中で「美しい」が大事なのではないかと、常日頃感じてます。
ものごとを見たり判断するときに最も大事にしたい感覚ですね。Co-Founderの長井が美学の研究者だったということもあり、ハバタクは「美」の話でよく盛り上がるんです。個人的には、「美しい」というのは、かなりラフな言葉にすると「いいね」「すごい」って感じですかね。なぜいいかっていうのは、とても非言語的なものですよね。古民家に入って「おおっ!」と思った感覚だったり、長い歴史の中で紡がれてきたつくり方や生き方、風景、哲学のようなものも、とても美しく感じる。
極めて主観的なんだけど、世界に見せても多くの人から「wonderful!」って言われる場合もある。そういう感覚を自分のモチベーションやビジネスの価値の源泉にしながら、世の中に提起していくことが大切だと思うし、逆に言うと、そこがあまりに切り離されすぎているから、日々の仕事と、それが社会にどういうインパクトを投げかけてるかっていうことが大きなシステムの中で分断していく。大きな意味でいうと、自分と、仕事やコミュニティと、社会のつながりの中でいかに共創していけるか、ということに繋がると思います。
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ハバタクラボとしての、秋田での活動はまだまだはじまったばかり。シェアビレッジの動向、そしてローカル発の美を形にしてゆくハバタクの今後の事業展開に、ぜひご注目ください。
(聞き手:東京オフィス/舟之川聖子)